
言葉ほど厄介なものはない。
自分の気持ちを伝える手段でありながら、自分の思いを伝えることは難しい。
愛情や感謝の気持ちを上手く伝えられない人も多いだろう。
中高年の会社員はどうだろうか?
社内外の関係者と、うまくコミュニケーションが取れているだろうか?
私自身は、部下を叱ることほど難しいと感じるものはなかった。
自分の感情の高ぶりに任せて、人前で部下を泣かせてしまったことがある。
もう20年も前のことだが、いまだに当時のことを後悔している。
「言葉は心の仮置き場」という表現がある。言葉で正確に伝えることはできず、あくまでも表現のひとつにすぎないというとい意味だ。
言葉の限界
1. ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
哲学者ウィトゲンシュタインは、著作『哲学探究』において、「言葉の限界は世界の限界」という考え方を示し、言葉が思考や感情の道具であることを論じた。
2. ジャック・デリダ
ポスト構造主義の哲学者で、言葉や記号の一時的な意味の生成と不安定さについて研究し、「言葉は意味を固定できない」という考え方を示している。
3. 芥川龍之介
日本文学において、「言葉」が感情や思考を完全に表現することが難しいと感じていた作家の一人である。
4. マルティン・ハイデッガー
ドイツの哲学者で、人間とは何か、世界とは何かを追求し、言葉を「存在を開示する場」として捉えつつ、同時に不完全で一時的なものであると考えた。
日本語の限界
日本語は、感情や微妙なニュアンスを伝えるのに優れた面を持っている。
曖昧さの許容
日本語には「空気を読む」文化があり、言葉にしきれない部分を相手が察することを前提とする場面が多い。この「余白」が感情を繊細に伝えるのに役立つこともある。
敬語や表現の多様性
丁寧語や謙譲語、尊敬語などが感情の微細な違いを補い、ひとつの感情表現が豊富なのも特徴である。
他の言語との比較
しかし、その一方で、日本語は感情を率直に伝えるのが難しいとも言える。たとえば、直接的な表現が控えめであることや、相手に誤解されないよう慎重に言葉を選ぶ必要があるため、素直に気持ちを表現することが大変だと感じる人も多いだろう。
英語では感情を直接的に伝えるフレーズが豊富で、ストレートに気持ちを言葉にすることが奨励される。ただし、ニュアンスや暗黙の了解を前提とする表現は、日本語ほど豊かではないことも確かだろう。
部下の叱り方
日本の職場において、部下を叱るのが難しいと感じる人は多いと思う。
叱ることは相手を否定するためではなく、成長や改善を促すための行為のはずだが、伝え方を間違えると逆効果になってしまうこともある。今なら、以下のような点に気をつけたい。
1. 叱る目的を明確にする
叱る際は、「相手の成長」や「チーム全体の目標達成」を意識して話すことが重要。感情的になるのではなく、冷静に事実を伝えることを心がける。
2. 行動を指摘する、人格を否定しない
「その人自身」を否定するような言い方は避け、「具体的な行動」に焦点を当てて指摘する。
3. 感謝やポジティブな要素も伝える
叱る中にも、相手を認める言葉を挟むことで、相手に安心感を与えつつ改善を促す。
4. 「曖昧さ」を避ける
日本語は曖昧な表現が多く、相手に伝わりにくいことがある。指示を明確に具体的に伝える。
5. 叱るタイミングを見極める
叱るのは人前を避け、感情的にならないよう冷静になる時間を取る。叱った後にはフォローを忘れず、相手に寄り添う姿勢を忘れない。