
国税庁から「路線価」が発表された。全国平均が4年連続上昇。インバウンドの好調を受けて、北海道のニセコ、高山市、豊岡市などの温泉街が軒並み上昇した。
「路線価」は、相続税や贈与税の課税基準に使用されるが、不動産業界(売買価格)や金融業界(債権回収)などでも幅広く活用されている。
一方で、2025年「地価公示データ」によると、全国の調査地点25,519地点のうち、下落した地点は5,225地点(約20.6%)もあった。ベスト10を東京都が占める傍ら、ワースト10は北海道が占める。
このように、日本国内で価値が失われる土地も存在する。これから不動産を購入する方は、それが資産になるのかよく吟味した方がよい。
今回は、日本で価値が失われた土地、買ってはいけない土地を紹介します。
土地の価値が失われた背景
日本の戦後の全体的な傾向としては、土地価格は長期的に見れば上昇してきました。特に高度経済成長期(1950〜1970年代)とバブル経済期(1980年代後半)は急激な地価上昇を経験しています。
しかし、すべての地域で価格が上昇し続けたわけではなく、戦後以降に「不動産価値が下がった土地」や「長期的に低迷した地域」も存在します。
地方の過疎地域
- 北海道(夕張など)、東北、四国、山陰地方、九州の一部過疎地域。
- 理由
- 若年層の都市流出で人口減少
- 雇用の場がなく産業が衰退
- 公共交通の廃線で利便性低下
- 地価は戦後の一時的な上昇を経て、1990年代以降は下落傾向が顕著。
炭鉱・鉱山都市の衰退
- 福岡県の筑豊、北海道の夕張、秋田県の鹿角など。
- 理由
- エネルギー革命により石炭産業が衰退(1950〜60年代)
- 主要産業を失い、急速に人口流出と経済縮小が進行
- 都市そのものが縮小し、住宅地・商業地ともに地価は大幅下落。
軍需・工業都市の転換失敗
- 広島の呉、長崎の佐世保の一部、静岡の軍需工場地域など。
- 理由
- 軍事施設の撤去後、うまく民間転用できなかった地区は衰退
- 鉄道や港湾の再整備に遅れ、交通の要所から外れる
- 都市全体は発展していても、特定の区域が空洞化・地価低迷。
福島第一原発事故による避難区域
- 福島県の双葉町、大熊町、浪江町など。
- 理由
- 2011年の原発事故で住民が避難、長期的な居住は困難
- 一時的に土地取引そのものが停止し、価値が事実上ゼロ
- 近年は徐々に一部帰還可能だが、価格回復には時間が必要
リゾート開発の失敗
- 北海道ニセコ以外のリゾート地、バブル期のリゾート地(伊豆・熱海の一部、長野県の高原地帯など)
- 理由
- バブル経済期に開発が進んだが、利用者減少や維持費高騰で放置
- 不動産価値が下落し「負動産」となる例もある
- 現在も売却困難な別荘地が多数存在。
実際に価値の下落した地域
東京圏・大阪圏・名古屋圏といえども、戦後の長い歴史の中で地価が「下落」した時期・地域は確実に存在します。以下は、三大都市圏において地価が実際に下落した代表的な時期と要因、および下落が顕著だった地域の例です。
地価が下落した主な時期
◾️バブル崩壊後(1991年〜2005年頃)
不動産バブルの崩壊により、全国的に商業地・住宅地ともに下落。 東京23区、大阪市中心部、名古屋市中心部ですら下落。特に、湾岸埋立地・ニュータウン・郊外住宅地で大幅下落。
◾️リーマンショック後(2008〜2012年)
都市部でも投資資金が引き上げられ、下落傾向。東京のオフィス需要も一時停滞、大阪・名古屋も同様。
下落が顕著だった地域
東京圏(東京都・神奈川・千葉・埼玉)
・多摩ニュータウン(東京都多摩市など)→少子高齢化・人口流出により地価は長期低迷。
・千葉ニュータウン(印西市・白井市など)→バブル期に開発が進んだが、アクセスや商業の遅れで地価が下落。
・湾岸埋立地の一部(江東区・大田区など)→地盤や災害リスクの懸念から敬遠された時期も。
・埼玉南部のベッドタウン(所沢市、入間市など)→東京の一部下落の影響を受けて値崩れ。
大阪圏(大阪府・兵庫県・京都府の一部)
・大阪市の西成区、東住吉区など一部エリア→社会的イメージや老朽住宅の多さから地価が低迷。
・堺市・岸和田市など大阪郊外→バブル期に開発された住宅地が過疎化・空き家問題。
・神戸市の一部(長田区など)→阪神淡路大震災(1995年)で被災したエリアは一時的に地価急落。
名古屋圏(愛知県・岐阜県・三重県の一部)
・名古屋市郊外(守山区、南区など)→中心部から離れた住宅地で需要が減少。
・尾張地方の一部(春日井市、小牧市など)→工業団地周辺で空室率が高くなり地価下落。
・瀬戸市などの陶器産業地→産業構造の変化で人口流出、地価下落。
要因 | 内容 |
---|---|
バブル崩壊 | 投資マネー撤退、地価崩壊 |
過剰な開発 | ニュータウン・郊外に過剰供給 |
人口減少・高齢化 | 若年層の流出、高齢者定住 |
災害 | 阪神淡路大震災、地盤液状化の懸念 |
交通・利便性の劣化 | 鉄道・商業施設の整備が遅れた地域 |
今後の回復可能性の見込み
日本の地価は全体的に上昇傾向にありますが、地域によっては下落や停滞が見られます。地域別の地価推移と今後の回復可能性は以下の通り。
地価が上昇している地域と要因
1. 都市圏および再開発エリア
- 東京都心部(中央区、渋谷区など): 商業地の地価が高水準で推移。
- 大阪市中央区、北区: 商業地の地価が上昇。
- 福岡市、札幌市、名古屋市など地方中核都市が、再開発やインフラ整備により上昇。
2. 工業地の需要増加
- 千葉県、福岡県、熊本県など、外資の参入による工業地の地価が上昇。
地価が下落している地域と要因
1. 過疎化が進む地方
- 北海道の一部市町村(夕張市など): 人口減少と産業衰退により地価が低下。
- 青森県、秋田県、山形県などの一部地域: 住宅地や工業地の地価が下落。
2. 自然災害の影響
- 石川県能登地方(珠洲市、輪島市など): 地震や災害の影響で商業地や住宅地の地価が大幅下落。
3. 今後の回復可能性
- 地方中核都市: 再開発やインフラ整備が進めば、地価の回復が期待されます。
- 観光地やリゾート地: インバウンド需要の回復により、地価が上昇する可能性があります。
- 過疎地域: 人口減少が続く地域では、地価の回復は難しいと考えられます。
買ってはいけない土地
買ってはいけない土地をまとめると、以下のようになります。
• 郊外のニュータウン・高齢化団地(3都市圏共通)
• 工業団地周辺の過疎地
• 災害リスクの高い海沿いや低地
• 人口減少が続いている市区町村
あとがき
バブル崩壊や自然災害を予想することは、誰にもできない。一般の民間人が、確実に値上がりする土地を手に入れることも不可能。そもそも最初から値上がりを見込める土地は、一般人のマーケットに流出しない。
それでも、国内外の投資家たちが土地を買い漁るのは、土地はインフレに強く、相続対策になり、インカムゲイン(賃貸収益)とキャピタルゲイン(売却益)の両方が見込めるからにほかならない。
これからマイホームを検討する方も多いと思います。できるだけ価値の下がらない土地を購入したいものですね。
「路線価」の見方が分かりづらいという方には、「土地データ」を参考にするとよいでしょう。私が不動産を購入する際は、必ず「土地データ」を確認するようにしています。