
先日、金沢市で半日時間が取れた。
江戸時代の城下町を偲ばせる「お茶屋街」を歩いてみた。
情緒ある町家を生かした、お洒落なカフェやショップが立ち並んでいる。
その昔、旦那衆が人目を忍んで通ったという「暗がり坂」。

なんとも男心をくすぐる坂道ではないか。
ところで、「お茶屋」と「遊郭」は何が違うのだろうか。
新撰組の足跡をたどって、京都の島原遊郭を散策したことがある。
島原大門をくぐると、置屋の角屋や輪違屋が重要文化財として保存されていた。
その違いについて、定義を調べてみることにしよう。
お茶屋と遊郭の違い

江戸時代の「お茶屋」と「遊郭」は、どちらも遊興や社交の場。しかし、その役割や営業形態は大きく異なっていた。
お茶屋(おちゃや)
- 主な役割:
食事や酒を提供し、芸者を呼んで宴席を楽しむ場所。
あくまで「接待の場」であり、性的サービスは原則なし。 - 営業形態:
お茶屋は芸者を抱えておらず、客の要望に応じて置屋から芸者を呼ぶ。
請求は料理代・場所代・芸者代などをまとめて「付け払い」。 - 場所:
京都祇園や江戸の新吉原周辺など、花街に多い。 - 雰囲気:
芸者が三味線や踊り、唄で盛り上げる大人の社交場。
恋愛や性的関係は原則御法度。
遊郭(ゆうかく)
- 主な役割:
幕府公認の性風俗営業地。遊女が接客し性的サービスを提供。 - 営業形態:
遊女は「揚屋」や「遊女屋」で待機。
客は指名して遊女の部屋に通される。 - 場所:
江戸の吉原遊郭、大阪の新町遊郭、京都の島原遊郭など。
高い塀や門で囲まれた区画の中に店が並ぶ。 - 雰囲気:
華やかながらも閉ざされた空間。
遊女は厳しい身分制度の中で生活し、借金や契約期間で縛られていた。
項目 | お茶屋 | 遊郭 |
---|---|---|
目的 | 芸者の芸と会話を楽しむ | 性的サービス |
接客者 | 芸者 | 遊女 |
営業形態 | 芸者を置屋から呼ぶ | 遊女が常駐 |
場所 | 花街 | 遊郭 |
雰囲気 | 開放的・社交的 | 閉鎖的・非日常的 |
お茶屋と遊郭の料金相場

当時の料金相場も調べてみた。当時の通貨を現代価値にすると、1両 ≒ 10万円〜15万円。
お茶屋(花街の宴席)
- 席料・料理代:数百文〜1分(1分=1/4両)
- 芸者代:ひとり1晩で約1分
- 小間使い・仲居代:数十文
- 合計:現代価値にして 数万円〜10万円
- お茶屋に到着
常連客か紹介がないと入れない。- 料理・酒が出る
懐石料理や酒肴を楽しむ。- 芸者・舞妓が到着
三味線、唄、舞、座敷遊びで盛り上がる。- お開き
翌日まとめて「付け」で精算。
遊郭(吉原など)
- 揚代(遊女の代金)
- 高級遊女(太夫・花魁):2〜3両(30〜50万円)
- 中級:1両前後
- 下級:数百文〜1分
- 座敷料・酒食代:別途
- 心付け:小判や金子を包む
- 郭内の揚屋に入る
遊郭は塀と大門で囲まれ、夜明けまで外出不可。- 見世で遊女を指名
格子越しに並ぶ遊女を見て選ぶ。- 初会
初めての相手はお座敷で酒を酌み交わすだけ。
いきなり同衾は不可、信用を築く必要あり。- 二会・三会
何度か通ってようやく「馴染み」になり、夜を共にできる。- 明け六つ(午前6時頃)にお開き
揚代や酒食代をその場で支払い。
- お茶屋は、夜の数時間で終了。芸者の芸事中心。宴会費用は数万円〜十数万円程度。色恋抜きの社交場。
- 遊郭は、夜通し。最初は酒と会話だけで、通い詰めて徐々に親密になる流れ。特に吉原の上級遊女は「手が届きにくい存在」で、恋愛の駆け引きも含めて贅沢な遊びだったようだ。
あとがき

ちなみに、京都では今でも「お茶屋」の文化が残っている。京都の旦那衆は、祇園や先斗町に芸妓さんや舞妓さんを呼んで宴を楽しむ。
会社員時代に、お茶屋で接待を受けたことがある(写真)。芸妓さんが三味線を弾き、舞妓さんが舞っていた。無粋な話しだが、舞妓さんひとりを呼ぶのに数十万円もすると聞いて驚いたものだ。
今思うと貴重な体験をさせてもらった。