
宮島を訪れると驚くことがある。
関西で見慣れている「奈良の鹿」とは、随分と様子が違うことだ。
奈良の鹿は、鹿せんべいを貰おうと観光客を執拗に追いかける。もはや怖いほどの執念である。
一方で、宮島の鹿は、集団で群れることもなく大人しくて控えめだ。
古より「神の使い」として信仰されてきた奈良の鹿。野生として自然の生態系に戻したい宮島の鹿。
奈良の鹿が宮島に持ち込まれた歴史があり、遺伝子が同じながら、行政の方針や考え方に大きな違いがあるようだ。
奈良の鹿と宮島の鹿の違い
奈良公園の鹿
- 種類:ニホンジカ(本州に生息する亜種)
- 数:およそ1,000〜1,200頭
- 特徴:1200年前の奈良時代に遡り、春日大社の神鹿として保護されてきた歴史があり、文化財的な存在。人に慣れており、お辞儀をして「鹿せんべい」をねだる行動がユーモアで可愛らしい。これは食べ物を貰うための学習行動と考えられる。
- 管理:文化財保護法で規定された天然記念物。鹿愛護会が保護、管理している。定期的に健康診断や角切りが行われる。
- 鹿は神の使いとして、人間との共存型。
宮島厳島神社の鹿
- 種類:ニホンジカ(西日本に生息する個体群)
- 数:かつては1,000頭近くいたが、現在は200頭前後。
- 特徴:奈良の鹿より痩せて小さい。昔は「神の使い」とされていたが、現在は完全に野生動物として扱われている。鹿せんべいの販売も無くなった。日陰や砂浜で休んでいることが多く、食べ物が少ないため海藻を食べたり、海を泳いで本州に渡る個体も存在する。普段は草木を探して食べるが、観光客の地図や紙袋を食べてしまうこともある。ゴミを食べて体調を崩す個体もいる。
- 管理:改正自然公園法により、餌やりは禁止されている。餌やり禁止の看板が多く立ち、自然な生態系に戻す方針で環境省や広島県が指導。危険を避けるため角切りは行われている。
- 鹿は害獣として、自然回帰型。
宮島の問題
オーバーツーリズム
近年、オーバーツーリズムの問題が叫ばれるなか、宮島も例外ではない。宮島口から、多くの外国人観光客がフェリーに乗って押し寄せる。狭い島内に、星野リゾートや、ヒルトン系列ラグジュアリーホテルが開発中だ。観光客が残したゴミを食べる鹿の被害も報告されている。
餌やりの問題
現在は、見かねたボランティア団体が、鹿の生息する山野で一定量の餌を与えている。安全のために角切りも行われる。自然の生態系に戻すと言いつつ、やや中途半端な対応であることは否めない。鹿の数は激減しているが、生き残った鹿の体格は小さくなり、食物の少ない島内で生存できるよう進化しつつあるようだ。宮島の南部には、まだ観光客の来ない鹿のハーレムが残っている。
鹿の虐待
奈良の鹿が、心無いアジア人観光客から虐待されている動画が流れている。一方で、広島はアジア人から不人気な観光地である。欧米人観光客の比率が高いことから、虐待される個体は少ない。しかし、某C国人が鹿の角を切ってSNSに投稿するような問題も発生している。